手付金を払うと、その金額が「契約をやめるときの値段」になります。買主は手付を手放せば、売主は倍にして返せば、理由を問わず契約を解除できる。ただしいつまでもではありません。
民法は手付についてこう定めています。
買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、
契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に
着手した後は、この限りでない。
出典:民法 第557条第1項
300万円の手付を払っていれば、買主は300万円を手放せば解除できます。売主は 600万円を用意すれば解除できます。どちらも理由は要りません。違約金の話し合いも要りません。
手付は、決済のときに代金の一部に充てると契約書に書かれていることが多く、解除しなければ払い損にはなりません。
売主が個人なら、手付の額を法律は決めていません。当事者の合意で決まります。売主が宅地建物取引業者なら、宅建業法第39条が次のように縛ります。
同じ業者が売主の契約では、契約違反で解除したときの違約金と損害賠償の予定額も、合わせて代金の10分の2までです(第38条)。
新築の建売やマンション、業者が買い取って直した中古住宅は、多くは業者が売主です。個人どうしの中古住宅の取引は、この縛りの外にあります。どちらかは、重要事項説明書の売主の欄で分かります。
業者が売主の場合、手付金などを一定の額より多く受け取るときは、保証や保管の措置をとってからでないと受け取れません(第41条・第41条の2)。業者が倒産しても、払ったお金が戻るようにするためです。
| 物件 | 措置が要るとき |
|---|---|
| 工事の完了前(未完成の新築など) | 代金の5%を超えるか、1,000万円を超える |
| 工事の完了後 | 代金の10%を超えるか、1,000万円を超える |
出典:宅地建物取引業法 第41条第1項・第41条の2第1項、同法施行令 第3条の5
ここでいう手付金等には、契約のあと引渡しの前に払う中間金も含まれます。どんな措置をとるかは、重要事項説明で説明される項目です。
条文の答えは「相手方が契約の履行に着手するまで」です。ところが、何をもって着手とするかは、条文に書かれていません。売主が引越しの準備を始めた、買主がローンの本審査を申し込んだ。そうしたことが着手にあたるかどうかで、争いになりえます。
そこで売買契約書には、手付で解除できる期限を日付で書いておくことが多い。「手付解除期日」のような欄です。
この日付が契約日にあまりに近いと、手付で解除できる余地はほとんどありません。逆に決済の直前までにすると、売主は最後まで売れたかどうかが確定しません。何日先に置くかは、交渉で決まります。業者が売主の場合は、相手の着手より前に買主の解除を締め切る定めが、第39条第3項の「買主に不利な特約」にあたるかが問題になることがあります。
契約書には、手付解除のほかにも解除の条項が並んでいます。お金の扱いがまったく違うので、分けて読んでください。
| 解除の理由 | お金の扱い |
|---|---|
| 手付解除(理由は問わない) | 買主は手付を失う。売主は倍額を払う |
| ローン特約(融資が下りなかった) | 手付を返して白紙に戻す定めが多い |
| 契約違反 | 契約書で決めた違約金。業者が売主なら代金の2割まで |
融資が下りなかったときに使うのは、手付解除ではなくローン特約です。ここを取り違えて手付を手放す必要はありません。
手付の額は、解除の値段として決めてください。小さければ、売主も気軽に解除できます。大きければ、自分が解除しにくくなります。お互いに縛りあう強さを、金額で決めているということです。
手付解除の期日と、ローン特約の期限は、それぞれ何月何日ですか。
契約書の写しをもらったら、仲介会社にまずこれを聞いてください。2つの日付の前後で、使える解除が変わります。
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